器量も悪くなく若々しい女が、自分では塵もつかないように振る舞い、文など書くにも鷹揚に言葉を選び、墨の色もほんのりと思わせぶりで、こちらがもっとしっかりと見てみたいものだと思っても、じれったくなるほど気をもませ、ようやくわずかに声を聞けるほど近寄っても、聞き取れないほど小さな声で、言葉少ないようなのが、うまく欠点を隠すものです。 それをしなやかで女らしいと思っていると、あまりに情趣にとらわれ過ぎて、つきあっているうちに浮ついたところが見えてきます。 これが女の第一の難点と見るべきですね。
女のいろいろな務めの中でもなおざりにしてはならない夫の身の回りの世話の方は、あまりに情趣があり過ぎて、日頃のちょっとしたことでも風流に解するなどということは、なくてもよさそうなものですが、逆に実直一筋で、額髪を耳の後に掻き上げてばかりで、忙しく立ち働いている美しげのない一家の女主人が、何の嗜みもなく夫の世話ばあり焼いているというのも。 朝の出仕夕方の帰宅につけ、公私にわたる人の行動の、良し悪しにかかわらず見たり聞いたりした有様を、親しくもない他人にわざわざ話したりするものですか。 身近に暮らしている人が理解してくれるなら語り合いたいと思えばこそ、微笑みも浮かび涙ぐみもするものです。 あるいは世間に筋の通らない、腹立たしく自分の心ひとつに納めておけない事など多いものですが、この女に聞かせてもわかりはしないだろうと思うと、つい背を向けてしまい、自分一人で思い出し笑いなど出てきて、『ああ』と、つい独り言など漏らせば、『何事ですか』などと、きょとんとした顔で見上げていたりすると、なんとつまらないことでしょう。
ただひたすら無邪気で素直な女を、直したり補ったりして妻に仕立てていくのが良いでしょう。 少し頼りなくとも、仕立て甲斐があるような気がします。 たしかに差し向かいで暮らしている間は、その可愛らしさに、頼りなさも許してしまいましょうが、離れたところにいて必要な用向きを言ってやったり、また折々の務めなど、趣味的な事でも実務的なことでも自分一人では判断がつかず、思慮に欠けるのは、とても残念なことで、頼りないという欠点は困りものです。 その逆にいつもは少し角があって愛想のないような女が、時と場合によっては見栄えのするような事もあるものです」
などと、この道にかけては知らない事がない左馬の頭も、この問題には結論を出すことが出来ず溜息をついています。
「ここまで来たらもう階級はこだわらないことにいたしましょう。 顔かたちはさらに問題にしないことにしましょう。 どうしようもなくひねくれているというのでなければ、ただひたすら真面目で、気だての穏やかな女こそ、生涯の頼りと思うべきです。 その上教養や心遣いなど持ち合わせていたら喜びに思い、少しくらい欠点があっても無理に要求はしないことにしましょう。 安心して信じられ、嫉妬深くもない性格であれば、表面から見える風情などは後から自然に付け加えられる事ですからね。
女らしく恥ずかしがって、言いたい恨み言などあっても知らないふりで我慢して、見た目は平然と貞淑を装っていながら、心に思いあまる時には、言いようもないほどすごい言葉や哀れっぽい歌を、思い出の形見として書き置いたりして、深い山里や世間離れした海辺などに身を隠してしまう女もいます。 私がまだ子供だった時、女房などが読んでくれた物語などでそんな話を聞くと、たいそう哀れで悲しく、よくそこまで考えたものだと涙さえ流したものです。 今思えば、なんとも軽々しくわざとらしい事です。 いくらつらい事を目の前で見せられたとしても、愛情の深い男の心も知らないように姿を隠して、夫を困らせ心を試そうとするうちに、とうとう縁が切れてしまうというのもつまらないことではありませんか。
『よくぞそこまで思い切ったものだ』などと褒め立てられて、感情がたかぶってとうとう尼になったりいたします。 出家を思い立った当初は、悟りきったような気がして、後で後悔する事など思いもよらず、『なんとまあ、お気の毒に。 よくここまで思い切られたものですね』などと言って、知り合いの者などが見舞いに来てくれたり、女がそれほど嫌とも思い切れない男が聞きつけて涙を流したりすれば、召使いや古女房なども、『殿様は情の深いお方ですのに、お若い身でもったいないことを』などと言います。 自分で額髪をさぐってみても手応えがなく、急に心細くなって、泣き顔になったりもするのです。 我慢していても涙がこぼれはじめると、折りにつけ抑えきれず、後悔することばかりで、仏様もこれでは、なんと思い切りの悪い者よとご覧になることでしょう。 濁世に浸っていた時より、中途半端な出家では却って悪い道にさまよってしまうように思われます。 また宿縁浅からず、尼になる前に夫が探し出して連れ戻したとしても、その思い出はいつまでも消えず、夫婦仲もしっくりいかなくなってしまうことでしょう。
|
|